犯罪現場を目撃したときに、一般人が犯人をその場で取り押さえる「私人逮捕」について、どのような条件で許されるのか、また注意点を解説します。
以下の見出しに沿って詳しく見ていきましょう。
私人逮捕ってなに?
私人逮捕とは、警察官以外の人が犯人を逮捕する行為を指します。
日本では現行犯(準現行犯も含みますが、理解して実行するのは難しいので次の章からは割愛)に限り、逮捕状なしで私人による逮捕が認められています(刑事訴訟法213条)。
現行犯とは「犯罪行為中、または犯罪直後の者」、
準現行犯とは「犯罪直後で犯人と明らかに分かる状況(例:「あの人泥棒!捕まえて!」と追いかけられている状況)」の者を指します(刑事訴訟法212条)。
そして逮捕後は直ちに警察官または検察官に引き渡す必要があります(刑事訴訟法214条)。
私人逮捕の逮捕行為はどこまで許される?
私人逮捕において、許される行為は「必要最小限の実力行使」に限られます。
過剰な暴力や拘束は、暴行罪や傷害罪に問われる可能性があります(刑法35条:正当行為の規定)。
また、誤認逮捕の場合、名誉毀損や不当拘束として法的責任を問われることもあるため、慎重に行動する必要があります。
しかし、全力で逃げる犯人を最低限の力で捕まえるなんて到底無理な話です。
殴って怯ませたり、頭から地面に落とすなどしなければ、犯人の逃走行動の強さによって仕方なしに負わせてしまった怪我ならば違法性を問われる可能性は低いです。
プライベートの警察官の逮捕行為は私人逮捕になるの?
警察官が勤務外やプライベートで逮捕行為を行った場合、それは私人逮捕とは扱われません。
警察官は日本国内であれば、勤務中でなくても職権を行使して逮捕を行うことができます(警察法65条)。
つまり、警察官による逮捕行為は、常に「公務としての逮捕」とみなされます。
プライベートの警察官がする逮捕行為と私人逮捕に違いはある?
一般人の私人逮捕は、現行犯や準現行犯に限られる厳しい条件がありますが、警察官の場合は職務権限を活用するため、より広範囲の逮捕が可能です。
例えば、緊急逮捕や捜索権限も伴う場合があります(刑事訴訟法210条)。
捜索権限についてさらに詳しく言うと、警察官は逮捕をした時に「差押え」をする権限があります。
これは、犯人が持っている犯罪の証拠物を合法に取り上げることができるという権利です。
この犯罪の証拠物というものの中には、犯人が持っている身分証も含まれています。
反対に、当然ながら一般人の私人逮捕には「差押え」をする権利はありません。
ただし、犯人が持っている凶器・盗難品・盗撮に使ったカメラなどを、警察官が来るまでに取り上げる行為は「差押え」には当たらないので許されています。
痴漢・盗撮犯を狙った私人逮捕系YouTuberって違法?
痴漢や盗撮犯を捕まえる動画を投稿する私人逮捕系YouTuberが注目されています。
単に実際の犯罪者を見つけて捕まえるだけなら当然に合法です。
しかし、以下の注意点があります
• 私人逮捕の要件を守らないと違法
誤認逮捕や過剰な実力行使は、暴行罪や名誉毀損罪にまたは逮捕・監禁罪に問われるリスクがあります。
さらに、駅構内では営利目的の撮影は基本的に禁止されております(JR東日本)
• 目的が注目集めの場合はさらに問題
動画撮影が主目的の場合、公益性が認められず法的トラブルになる可能性があります。
2024年には「ガッツch」というYoutuberが、動画のネタのために覚醒剤の売人を呼び出して『覚醒剤取締法違反の教唆罪』に問われましたよね。
盗撮犯のカメラを取り上げるのって大丈夫?
盗撮犯の持つカメラやスマートフォンを取り上げる行為は、慎重に対応する必要があります。
他人の所有物を奪う行為は窃盗罪や器物損壊罪に問われる可能性があります(刑法235条、261条)。
証拠保全の観点から合理的な範囲内で行うべきですが、可能な限り警察に任せるのが安全です。
しかし、動画を消されてしまっては立件が難しくなってしまうどころか、違法な逮捕行為と言われてしまう可能性もあります。
「証拠を消されないように警察官が来るまで預かる」と理由を告げてから、預かるのがベターでしょう。
いざ犯罪を目にしたらどうするべき?
犯罪を目撃したとき、以下の対応を心がけましょう
1. 自身の安全を確保する
犯人を無理に取り押さえると、報復を受ける危険があります。
普段から訓練している者でないと、全力の力がぶつかり合った時に大怪我を負ってしまうリスクが高いです。
2. 速やかに110番通報する
「盗撮!新宿駅!」と言ったふうに、何があったかを端的に伝えましょう。
警察には最短で聞き出すためのマニュアルがあるので、最低限のことを伝えた後は自ら喋らず、質問に答えていくのが最もスムーズです。
自分が通報できない時は、近くにいる人を指定して110番通報を依頼しましょう。
3. 証拠を記録する
写真や動画を撮る、第三者の証言を確保するなどが有効です。
まとめ
私人逮捕は法律で認められている行為ですが、適用範囲や方法には厳格な条件があります。
無理な逮捕や誤った対応は、逆に法的トラブルを引き起こす可能性があります。
犯罪を目撃した際は、自身と周囲の安全を最優先し、速やかに警察に通報することが最善の対応です。
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